今も息づく
北海道開拓の歴史の跡をめぐる

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そらさん SORA 絵本作家

北海道を拠点に活躍する絵本作家。JR北海道ICカード乗車券「Kitaca(キタカ)」のキャラクター「エゾモモンガ」、北海道観光PRキャラクター「キュンちゃん」ほか、手がけた作品は多数。自身の絵本による子どもたちへの読み聞かせやライブペインティグ、各種メディア出演など多方面で活躍。主な著書に、ゆびにんぎょうぶっく「しろくまくんのおいしいものだ~いすき」(主婦の友社)、「TO YOU ~大切な君へ~」「ほしをつかまえたおうじ」(MG BOOKS)、ギフト絵本「赤い糸」(パルプ出版)など。これから数冊の絵本の出版も予定している。

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イーストエリアに受け継がれる歴史的建造物へ

イーストエリアにオフィスを置き、創作活動、執筆活動、メディア出演など多忙な毎日を送る絵本作家のそらさん。サッポロファクトリーの辺りを歩きながら、「イーストエリアには縁があるんですよ」と言います。「父が育った実家が、まさに創成川イースト。昔、創成川の辺りにサーカス小屋があって、火事で動物が逃げ出したという話を聞いたことがあります。小さい頃、家族で映画を観に行った記憶がありますね」と懐かしそうに話すそらさん。今日は、サッポロファクトリーに隣接する旧永山武四郎邸および旧三菱鉱業寮を訪れました。

 

日本の近代住宅史に刻まれる旧永山武四郎邸

旧永山邸は、第2代北海道庁長官を務めた永山武四郎が屯田事務局長時代の1880(明治13)年頃に建てられた私邸。緑豊かな永山記念公園の中に、その建物は静かに佇んでいます。「仕事でサッポロファクトリーにはよく来るし、公園を歩いたこともありますが、建物の中に入るのは初めてです」とそらさん。館長の福田秀則さんに案内していただき、館内を巡ってみました。

「永山武四郎は、1872(明治5)年に開拓使として札幌在勤となり、黒田清隆らとともに屯田兵制度設立に尽力し、『屯田兵の父』といわれる人。屯田兵による開拓と北方警備を推進し、後に明治天皇により旭川に『永山』という地名がつけられたのです」。

旧永山邸の特徴は、和室と洋室が隣り合わせに造られていること。このような和洋折衷の手法は当時では珍しく、住宅に洋風が導入される過程という見方もされています。「随所の造作が優れていて、保存状態もよく、一般住宅としては北海道で最も古い建物の一つです」。

旧永山邸は1987(昭和62)年、北海道指定有形文化財に指定され、2004(平成16)年には北海道遺産「開拓使時代の洋風建築」の一つに選定されています。

昭和モダンの趣豊かな洋館、旧三菱鉱業寮

旧永山邸の廊下を渡ると旧三菱鉱業寮につながります。炭鉱経営を行っていた三菱鉱業は、1911(明治44)年に旧永山亭を買収し、1937(昭和12)年に旧三菱鉱業寮を増築。「旧永山邸はお偉い方の宿泊に、旧三菱鉱業寮が社員クラブとして使われていたようです」「三菱が買収したのは、この建物が魅力的だったからでしょうか?」「そうですね。当時としては、建築的にも非常に価値のある建物だったと思います」。

2階に上ってみると、そらさんが「わぁー、きれい!」と思わず声を上げました。窓から日が差すホールはレトロモダンな趣。当時の利用者が憩いの空間として親しんでいたといいます。旧三菱鉱業寮は、2018(平成30)年に耐震工事を終えてリニューアルオープンし、現在国の登録有形文化財に申請中。民間企業のクラブが現存する例は道内に少なく、昭和初期のモダンな洋館には、高い歴史的価値があります。

 

文化財を身近に感じる、和洋折衷喫茶・ナガヤマレスト

「ナガヤマレスト」は、旧三菱鉱業寮の1階にオープンしたカフェ。旧永山邸と同様に和洋折衷がコンセプトで、歴史的建造物ならではの雰囲気が楽しめます。「文化財を疎遠なものではなく、身近に感じていただきたい。歴史に触れる機会が少ない方にも、当時の趣を味わっていただきたいと思います」と店長の本間ありささん。メニューは、懐かしい洋食と現代の料理の融合をテーマにしています。

 

そらさんが注文したのは、春からの新メニュー・あんクリームサンドのフルーツサンド。白あん入りのホイップクリームとわらび餅が入った新感覚のオリジナルサンドです。「わらび餅の入ったクリームの舌触りが優しく、しっとりきめ細かいパンとフルーツの爽やかさが素晴らしい。この味わい、ほかには絶対ないですね!」とそらさんも絶賛。レトロな趣豊かな空間に、穏やかなくつろぎの時間が流れていました。

外に出て公園を歩きながらそらさんは言いました。「長い年月を経て建物が受け継がれ、その中にカフェができて、公園では子どもたちが遊んでいる。この建物が喜んでいるように感じ、いい年のとり方をしているように思えました。ただ保存されているのではなく、まちの中で活用されているのが素晴らしいですね。私も絵本の読み聞かせなどで利用してみたいと思います」。

そらさんは建物を見上げて「永山おじいちゃん」と呟いた。その横を、保育園の子どもたちが楽しそうに駆け抜けていきました。

 

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