YARDな風景vol.31
日本文化を飲もう
日本茶のお店、にちげつへ

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コーヒーや紅茶を楽しむカフェはたくさんあるけど、日本茶を飲めるお店って少ないですよね。忙しい日々の中で、おいしいお茶を飲んでホッとするひととき。「日本茶 にちげつ」でいかがですか?

創成川通に面するビルの3Fにあるにちげつは、2015年にオープンしたカウンター5席の日本茶のお店。日本茶インストラクターの資格を持つあけたゆうこさんが立ち上げました。「高校時代は海外で過ごし、大学では外国語を専攻し、会社に勤めてからもハワイ勤務。若い頃は西洋の文化に憧れましたが、大人になって自分の中に日本人としての特別な感覚があるような気がして。結婚して煎茶道を習い、お茶の中に日本らしさが全部詰まっているように感じました」

煎茶道に飽き足らず、もっとお茶のことを知りたいと思ったあけたさんは、日本茶インストラクターの資格を知り20年前に取得。全国各地のお茶の産地を訪ね、生産者のお話を聞く旅を続けました。「静岡をはじめ、福岡の八女、京都の宇治、埼玉の狭山など、アルバイトをしながら各地の産地を回っていました。そんな姿を見ていたビルのオーナーが、『日本茶の店を自分でやればいいのに』と声をかけてくださり、お店を始める思いになりました」

にちげつのリストに載るお茶は15〜17種類。1〜2ヶ月に一度、季節に合わせて提供するお茶の銘柄を入れ替えています。「季節によっておすすめするお茶は違いますし、新しく訪ねた産地のお茶を紹介する場合もあります。自分が出会った素晴らしいお茶を飲んでいただきたいという思いがありますね」

あけたさんは、日本茶を提供する思いについて、こう語ります。「お茶は農作物で、毎年出来も違うし、生産者によって目指しているものも違います。そういう農作物ならではの同じものはできないということを知っていただきたいと思いますし、産地のことを少しでも思っていただきたいと思います。お茶は、ホッとする、気持ちの切り替えになる、浄化するといった作用がある飲みもの。お菓子があったらおいしいお茶を淹れてみようとか、手間をかけて淹れることによって楽しい気持ちになろうとか、そんな日常の中の小さな幸せを感じていただきたいと思います」

この日の季節の生菓子・引千切350円

お茶のおいしさを引き立てるお供は、やはり和菓子。にちげつでは、配達専門の「瑞祥庵」という和菓子屋さんから生菓子を仕入れています。「京都から来たお店を持たない和菓子屋さんで、主にお茶のお稽古をする先生など、お茶席のためだけに作っている方です。たとえば、このお菓子は引千切(ひちぎり)といって、お雛様のときにお茶席で食べるお菓子。京菓子の名前は何を表しているのか分からないものが多く、それはすぐに分かってしまうのはつまらないという考えで、遠回しに表現されるようです」

甘みのある味わいが楽しめる、八女の茎茶・白折600円

「それでは一杯どうぞ」と、あけたさんがお茶を淹れてくれました。口にすると、穏やかな甘みを感じ、なんだかうれしく感じます。「こちらは八女の白折(しらおれ)という茎茶で、きれいな緑色が出るお茶。甘みがあり、渋みは少なく、茎ならではの香ばしさがあります」

さっぱりとした飲みやすさ、深蒸し煎茶・5月のつゆひかり600円

「もう一杯いかがですか?」と淹れてくれたのは、5月のつゆひかりという静岡の深蒸し煎茶。「こちらは、旨みが強すぎず、さっぱりして飲みやすいお茶。深蒸し煎茶は、お茶をなかなかおいしく淹れられないという方におすすめで、誰がどんな温度で淹れても同じような味を出すことができます」

あけたさんに、家でできるおいしいお茶の淹れ方を教えていただきました。「お家では、これから飲むお茶碗を使って湯冷まし。お茶碗も温かくなるし、お湯の量もきっちり計れて、湯冷ましも同時にできます。お湯の温度は入れ物を移し替えるたびに10℃ずつ下がり、90℃のお湯をお茶碗に淹れると80℃に、そのお湯を急須に淹れると適温の70℃になります。お茶の葉っぱは3グラムで、アイスクリームを食べるような小さなスプーンで軽く山盛りぐらい。煎茶なら70℃弱の温度で1分半、深蒸し茶なら70〜75℃の温度で30秒で淹れます」

最後に、あけたさんにお茶を通してお客さまに伝えたい思いを聞きました。「お茶は嗜好品で、正解というものはなく、飲んで自分が好きか嫌いか感じてもらえればいいと思っています。ただし、日本茶を通して、日本をもっと知ろうと思ってほしいですね。日本の文化だったり、日本人が当たり前だと思っている独特な感性のようなものを感じてほしいと思います」。日本茶を飲んで、気持ちが豊かになる。にちげつには、いつも穏やかな時間が流れています。

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