YARDな風景vol.30
ジャズとコーヒー、
のんびり紙ひこうきへ

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さっぽろテレビ塔の近く、バスセンターの近くにある「紙ひこうき」という喫茶店。1977年に現在のマスター・近藤裕さんの父が開いたお店で、創業当初は南1条東6丁目に店を構えていたが、1980年代中頃に現在の場所に移転し、15〜16年前に近藤さんが引き継いだ。古いビルの1階にあるお店に入ると、木を基調にしたゆったりとした空間が広がり、なんとも懐かしいような、昔から馴染んでいるような居心地の良さを感じる。「みんながゆったりできる空間にしたいという父の思いを継いでいます。『紙ひこうき』という店名は、僕が子どもの頃に紙ひこうきで遊んでいる風景を見て名づけたそうです」

このお店には、札幌で活動するジャズミュージシャンが集い、20数年前から不定期でライブが行われている。流れる音楽もジャズで、棚には多くのレコードとCDが並ぶ。これも、ジャズ好きの父から受け継いだスタイルだ。「お客さまは、常連のミュージシャンの方が多いですね。ライブがある日は、楽器を背負って集まり、お酒を飲みながらセットリストを組んだりしています」

以前に行われたライブの様子

カウンター奥の棚にはレコードとCDがギッシリ

ライブに出演する札幌のミュージシャンのCDを販売

近藤さんは当別町出身で、当別産の野菜や米などの食材を使った料理にこだわっている。メニューを見ると、「ザ・喫茶店の味」といえそうなご飯物やスパゲティ、トーストなどが並び、ググッと食欲をそそられる。「イチバン人気は焼肉チャーハンで、40年以上変わらない味。昔ながらのオムライスやカツピラフも人気です。ケーキは妻が手作りしていて、添加物を一切使わない安心できる味わいをお届けしています」

40年以上変わらない1番人気の味。焼肉チャーハン730円

やっぱりこうじゃなきゃ!昔ながらのオムライス750円

しっとりなめらかな食感が人気。ベイクドチーズケーキ400円

そして、喫茶店といえば、やはりコーヒーの味わい。創業以来、前マスターの父が作り出したブレンドを提供していましたが、コロナ禍の休業期間中に新ブレンド作りに挑み、今までのブレンドを「オリジナルブレンド」と、新ブレンドを「ハーモニーブレンド」と名付け提供している。「ハーモニーブレンドは、まろやかな酸味とスッキリした味わいが特徴。売上の一部を札幌のミュージシャンへの支援にしたいと思い、彼らの素晴らしいハーモニーを守っていきたいという思いをネーミングに込めました」という近藤さん。ジャズを愛し、ミュージシャンを応援する、マスター渾身の自信作だ。

モカベースのスッキリとした味わい。ハーモニーブレンド500円

昭和の時代に一つの「文化」として全盛期を迎えた喫茶店は年々減少し、主流はカフェへと移行している。コーヒーなどのドリンクやスイーツ、軽食と、提供されるメニューは同じようだけど、やはり全然違うんだな。喫茶店にはマスターの人柄や個性が映し出され、その店独自の「匂い」があった。紙ひこうきには、近藤さんと奥さんの温かい人柄、ミュージシャンたちの思い、そしてコーヒーや料理の「匂い」が染みついている。「自家焙煎コーヒーや妻が作るケーキを『おいしい』と喜ばれるのが一番うれしいですね。まずは店を50年目までやってみようと思っています。その節目までのんびり頑張りますよ」と近藤さん。きっと、ずっと近藤さんの紙ひこうきはのんびり飛び続けているだろう。

近藤さんと奥さんの真衣子さん

紙ひこうき名物(?)爪楊枝はタバスコの瓶に

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