YARDな風景vol.19
札幌の現代美術の拠点
「なえぼのアートスタジオ」へ

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札幌市苗穂に、現代美術のアーティストの拠点となる「なえぼのアートスタジオ」がある。ここは元缶詰工場の古い倉庫約270坪を改装した建物で、2017年にスタートした。立ち上げから関わっている、運営メンバーで美術家の今村育子さんと高橋喜代史さん、画家の山本雄基さん、管理人の荒岡信孝さんに、スタジオの成り立ちや活動について伺った。

左から:高橋さん、山本さん、今村さん、荒岡さん

「Think School」の縁から生まれたアートスタジオ

不動産業を営む荒岡さんは、今村さんと高橋さんがディレクターを務める、アートとまちづくりを学べる「Think School」の第1期生。そこで講師をしてスタジオを探していた山本さんに、苗穂にある大きな空き倉庫を紹介した。「私はアートとは無関係の不動産業。まちづくりの観点から何かアートとマッチングできることはないかと考えていたんです」と荒岡さん。山本さんは、今村さんと高橋さんに相談し、さらに作家仲間に声をかけた。「以前から仲間と『一緒に何かできたら』と話していたんです。みんな建物の大きさに驚いていました」と山本さん。信頼できる同世代の美術家が集まって運営メンバーを形成し、管理・運営方法や方向性などの仕組みを作り上げ、美術家主体のアートスタジオがスタートした。

現代美術のネットワークが、ここから広がる

山本さんと円をモチーフにした制作中の作品

―入居者の条件って何かありますか?

山本:一般公募はせず、運営メンバーが面白そうと思う作家に声をかけ、口コミや知り合いの紹介で集めてきました。

―入居されている方は、基本的にアーティストの方ですか?

今村:だけじゃないですね。アーティストのほか、アーティスト・イン・レジデンスを運営するNPO S-AIR、ギャラリー salon cojicaなども入居しています。いろんな職種の人がいた方が刺激があって面白いよねという発想です。

―アーティストの方は、ここで創作活動をしている感じですか?

今村:創作している人が多いけど、倉庫代わりやギャラリーとして使っている人もいます。

高橋:入居しているアーティストがそれぞれ知り合いや関係者を連れてきてくれるので、いろんな方に作品を見てもらう機会が多いですね。僕は、創作の場所であり、作品を見てもらう場所と捉えています。

―いろんなアーティストが集まっていることで、化学反応が起こったりしますか?

高橋:作家同士のネットワークが広がり、そこからイベントに参加したりといったこともありますね。

山本:神奈川県の相模原に多摩美大や女子美大、造形大などが集中しているエリアがあり、卒業生たち集まってオープンスタジオで取り組みを行っているんですけど、そこから声がかかり2年連続コラボレーションしたという動きもあります。

作家がどういう生き方をしているか認知してほしい

山本さんのスタジオの風景

―年に数回オープンスタジオが行われるということですが。

山本:作品を見せるだけではなく、制作の現場そのものを公開しています。

今村:パーティをして、各アトリエを回ってもらって…

山本:まだまだ現代美術ってそんなに浸透してないですから、作家がどういう生き方をしているか、どういう場所で何をしているのかということを認知してもらいたいですね。

―創作活動において、コロナの影響はいかがですか?

山本:いくつか出展機会がなくなって、代わりにオンラインで作品を販売をして、極端に大きな被害は出てないです。

高橋:僕は作家活動しながら美術の企画をしていますが、いくつかの企画がなくなり甚大な被害がありますね。

今村:札幌国際芸術祭もリアル開催がなくなったし…。

山本:逆に僧侶でもあるアーティストが入居していて、彼はコロナの大仏を作ろうとクラウドファンディングで資金を集めて全国を行脚しています。コロナが直接作品に関係しているんです。入居者によってそれぞれ状況が違いますね。

美術家/僧侶・風間天心さんのスタジオ

―入居されている方は、日々コミュニケーションを取っていますか?

山本:コロナ前は定期的にイベントや飲み会をしていましたね。

今村:会議とか、ここでダラダラ飲みながらやってたんですけど、コロナで全然できなくなって。現代美術の領域の人が集まっていてベースが似ているので、話をしても思いは共有しやすいです。

―このようなアーティストが集った施設は珍しいのでは?

山本:札幌では、金属工芸の人が集まったスタジオやテナントの一角をシェアして使うようなケースはありましたが、これだけの規模で制作も展示も行うような施設はないと思います。

今村:管理人さんがいるというのは、全国的にもレアケース(笑)。荒岡さんはいつも見守ってくれて、お父さんみたいな存在ですね(笑)。

山本:アーティストがお金の管理をするとトラブルが起きやすいけど、そこをカバーしてくれてとてもやりやすいですね。

美術家・武田浩志さんの作品

―荒岡さんは、管理人としてこのスタジオにどういう思いをお持ちですか?

荒岡:入居しているみなさんはどんどん有名になり、露出度も高くなって、全国から見学に訪れます。何となく美術って敷居が高いイメージがありますが、もっと関心を持ってもらえばいいなと思いますね。ここはオーナーに空間の改造を了承されていますが、そういった面で信頼をいただいていることに感謝しています。

山本:アーティストはすぐ壁に穴を開けたがる(笑)。それができるというのは最高ですね。

―アートスタジオとして、今後取り組んでいきたいことは?

山本:新しいことを始めるというより、継続すること。コロナにも配慮しつつ、イベントなど無理なく発信していきたいですね。入居者それそれが勝手に面白いことをやって、個人個人がメディアになって、そこから新しい関係性が生まれる。そういう集合体であることを継続していきたいと思います。

美術家・大橋鉄郎さんの作品は紙でできている

イーストエリアを、アートのまちに

2018年に開催された「ヤン・レイ&ヘレン・グローブ・ホワイト展覧会&トーク」+ naebonoオープンスタジオの様子

―苗穂というエリアにどういう思いがありますか?

今村:古いと新しいが混ざったなんかいい場所ですよね。札幌駅も近いし、イベントやったらたくさん人が来てくれるし、アクセスがよくて魅力的な場所だと思います。

山本:ごはんを食べに行ったり、散歩していると、だんだん面白い場所がわかってくる。古い場所を活かして、ちょっと風変わりな店主たちがいるエリアって豊かだなと思いますね。そういう人たちと世間話をしているうちに顔見知りになったりして。

―苗穂はもともとものづくりが盛んな地域。そこにこのようなアートスタジオが生まれたのは面白いですね。

荒岡:ニトリさんも美術館をつくる計画があるようだし、イーストエリアはアートのまちになる可能性はあるかもしれませんね。

高橋:オープンスタジオに、もっとたくさん人が来てほしいですね。美術館やギャラリーだけじゃなく、作家がどうやって作っているのか、話をしながら見てほしい。そういうことで、まちの一部分になれればいいなと思います。

荒岡:いま建設中のマンションのモデルルームなどに、入居者の作品などを展示してくれたら関心が高まると思うんですけど。そういうまちぐるみの企画も進めていきたいですね。

 

なえぼのアートスタジオ

制作スタジオと事務所使用がメインとなるため、イベントや展示会期以外の普段使用時には入口を施錠しています。御用の際は事前に入居者へご連絡の上お越しください。

今村育子 https://www.imamuraikuko.com/
高橋喜代史 https://www.takahashikiyoshi.com/
山本雄基 http://yamamotoyuki.com/
札幌駅前通まちづくり株式会社 https://www.sapporoekimae-management.jp/
シンクスクール https://www.thinkschool.info/

 

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