YARDな風景vol.15
さっぽろの下町、創成川イーストへの想い

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「神社の境内をお借りしてマーケットイベントを開催したいのですが…」
「ぜひご利用ください」

マチとヒトの接点をつくる場づくりを構想していた我々の想いと、社頭を賑やかにしたいという神社の想いが一致した瞬間だった。私の一言は北海道神宮 頓宮に赴任して間もない権禰宜さんにすんなりと受け入れられ、我々が企画する「さっぽろ下町マルシェ」の開催をきっかけに、創成川イーストのマチが動き始めた。

境内では、近郊の生産者が旬の野菜を販売したり、二条市場さんが海鮮焼き物を提供したり、クラフトビールを楽しんでいる人の姿も。子どもたちのために用意した輪投げやシャボン玉づくり、ものづくりワークショップなど、多くの人たちが夢中になっている様子を見て、さぞ「神様」も喜ばれたことだろう。

春から秋にかけては、祭事以外にもお茶や日本酒をテーマとしたイベントなど、地域内外の住民や事業者の交流が社頭を賑わせ、秋が深まれば黄色い落ち葉が境内を埋め尽くす。

かつては「札幌の台所」といわれた二条市場は、いつしか時代の流れで観光客向けの商売に切り替え、地元のお客さまが遠のいている…というのは、昔の話になりつつある。

令和元年、我々は「愛着の持てるマチ中の居場所づくり」をテーマに、「プレイスメイキング」という取り組みの一環で「創成東縁日」というイベントを開催したが、それはマチの「顔」である二条市場に店を構える三代目、四代目の店主たちの協力がなくてはできなかった。

ぜひ、二条市場界隈を通ったら、人一倍大きな声を張りあげているお店を覗いてほしい。自分好みに調整できるよう味を加減したいくらの醤油漬け、日本酒がすすむイカ墨をつかったイカの塩辛など、格別の味わいが待っている。

豊平川のほとり、「一番良い酒」千歳鶴のお膝元のこの地域には、明治期より酒蔵がいくつもあり、自ずと酒店も多かったそうだ。その名残りは商店などを経て、現在ではコンビニエンスストアに姿を変えている。当時、味噌、醤油、酒の量り売りをする店先の「角打ち」といわれる立ち飲みのできるスペースには、魚町や工場でひと働きした労働者が杯を交わしていたのだろう。

戦後、宿の一角から始まった路地裏のこの酒場。暖簾をくぐると老若男女、勤め人も御隠居も思い思いの時間を過ごしている。庶民の日常が感じられる雰囲気が魅力だ。私は、そんな市井の営みの感じられる「さっぽろの下町」が大好きなのだ。

(文と写真)
柴田寿治
二条市場前「寿珈琲」店主。2015年「さっぽろ下町マルシェ」開催。2017年5月一般社団法人さっぽろ下町づくり社を設立、代表理事。