『頓宮』って何?
創成橋を渡って南1条通りを東へ進むと,右手に大きなイチョウの木が見えてきます。北海道神宮頓宮の御神木です。大きな木を見ると安らぎを感じる私にとって,頓宮はまさにオアシスです。

イチョウが見事な頓宮
頓宮とは『お神輿がお休みする一時的なお宮』のことだそうです。戦前の札幌祭りではお神輿が円山の札幌神社(現在の北海道神宮)を出発して二泊三日をかけて札幌の町を練り歩きました。お神輿に乗った神様は旅館に泊まるわけにはいきませんから頓宮に宿泊したのです。
冬は円山まで参拝に行けなかった
この頓宮の始まりは遙拝所でした。明治の初め・・・この付近の人が「円山は遠くて道も悪いから参拝に行けない。特に冬は無理だ」と言い出したとか。今なら「バスセンター」から「円山公園」まで地下鉄で4区間ですが,当時は公共交通機関がないうえに,冬になると雪で道が閉ざされたといいます。そこで「代わりにここで参拝しましょう」と遙拝所が設けられたのが明治11年。これが現在の頓宮です。

冬は参拝に行けなかった北海道神宮
白石神社と手稲神社も起源をたどると札幌神社の遙拝所だったとのことです。北海道の厳しい開拓時代,人々は神様に力を授けてもらえるようにお祈りをし,うれしいことがあった時は感謝の言葉を伝えたに違いありません。
古材のリサイクル
遙拝所は一度焼失したあと,明治43年に札幌神社の古材をいただいて新たな社殿を建てて『頓宮』と改称しました。軟石の土台と木造の社殿が一部分ずれているのが建て替えの証です。社殿の裏側です,まさに裏情報。

古材のことも書いてあります
実は札幌神社も大正2年に伊勢神宮の古材をいただいて社殿を建てています。以前「伊勢神宮は20年おきに建て替える」と聞いたときに「もったいない!!!」と思ったのですが,それは私の勘違いで,神社の古材はリサイクルされているようです。
古民家鑑定士の方から《自然乾燥した木材は伐採後100年間は強度が増し,その後ゆっくりと強度が落ちていく》と聞いたことがあります。昔の木材はすべて自然乾燥ですから,数100年たっても強度が保たれているのです。寺社建築の古材のリサイクルは理にかなった方法なのだと感心いたします。

札幌神社の古材で建てた頓宮社殿
歴史を体感できる「ウラ」が大好き
歴史が好きなので,神社やお寺に行くと「ウラ」を見に行くのが習慣になっています。古い石碑が無造作に置かれていたりするのです。頓宮の「ウラ」に置いてある灯篭には『明治十四年』と刻まれており,札幌で最も古い灯篭の1つではないかと推測します。
古い社号標には『大社 札幌神社頓宮』『大正十五年 高桑市蔵』と刻まれています。職員の方が「これ,官幣大社の《官幣》の部分が折れたんだよ」と教えてくれました。

高桑市蔵が寄付した社号標
高桑市蔵は南1条西1丁目で雑貨店を営んでいた人で,レンガ造りの南一条交番も明治44年に彼が寄付したものだそうです。その交番は北海道開拓の村に移築されています。
札幌の先人には寺社や公共事業に私財を寄付した人が多く,それを見つけるのも私のまち歩きの楽しみの1つです。
参考文献
『さっぽろ文庫39 札幌の寺社』
『北海道神宮一日講社 創立九十周年記念誌』
(文と写真)
池田毅司 特別支援学校教員(地理・歴史)
2013年に札幌オオドオリ大学の授業で「まち歩き」の楽しさを初体験し,2018年から「鴨々川ノスタルジア」のツアーガイドも始めてしまったお調子者。札幌の歴史を独学中。週末は「三蜜」を避け,自転車で札幌を探検している。