「若い頃、バンドやってたんだよね〜」という話はよくあることで、それだけでは誰かから尊敬されるわけもでもなく、一時はプロのミュージシャンになりたいと詞と曲を書き溜めた時代もあったけど、如何せん「貧乏でも音楽で食っていく!」という根性もなく、いつの間にか音楽漬けだった生活の濃度は薄れ、社会に流されて生きてきましたよ。とはいえ、やはり音楽は好きで、ロック、ブルース、R&B、ヒップホップ、ジャズ…と守備範囲は幅広いのだが、よく行く店がススキノにあるジャパニーズロックバー。ここでは「大人の学芸会」なるイベントが開かれている。
「大人の学芸会」は、その店の客が集まり、何でもありの「芸能」を披露する素人フェス。音楽の場合は、ジャパニーズロックバーだけに「日本語限定」という縛りがあり、かつてバンドをやっていたことがあるオッサンたちが集まり(中にはバリバリ音楽活動継続中の人もいるけど)、酒を飲みながら日本のロックやフォークで盛り上がる。年2回、僕らはステージに立つために全力で熱くなる。
実は音楽スタジオ銀座な「苗穂」
本番の1ヶ月ほど前になると、「そろそろやる?」「やりますか〜」という具合に、僕らは苗穂に集まる。なぜ、苗穂なのか?音楽をやらない人にはどうでもいい情報だけど、実は苗穂はアマチュアバンドマンたちの拠点。3つの程よいスタジオが並ぶ、音楽スタジオ銀座なのだ。札幌最大級のスタジオ数を誇る「STUDIO Caddis」、昭和の香りあふれるサッポロオリンピアボウルの中にある「STUDIO MAGNUM」、札幌で一番あずましいスタジオと謳う「STUDIO CREAM」。

スタジオ数が多く、実に使いやすい「STUDIO Caddis」(札幌市東区苗穂町2丁目3) ここは福山醸造苗穂工場の裏にあり、かつて鉄道の引込線があった場所だという

サッポロオリンピアボウルの地下にある「STUDIO MAGNUM」(札幌市中央区北1条東12丁目オリンピアボウルB1F) 「Caddis」の系列店。隣の空き店舗は、かつて大人の学芸会の聖地だったライブバー「Vinnie’s BAR」
仕事を終えてどこかのスタジオに潜り込み、大音量でギターをかき鳴らす。あの頃のように指は動かず、速弾きなんて以ての外だが、ベースやドラムと一体となったときの快感はやはりいい。スタジオで何度も練習を重ね、本番のステージに立つ。スポットライトを浴びる。慣れ親しんだ歓声が沸く。演奏がボロボロでも、ライブはいくつになっても面白い。翌日には、またいつもの生活に戻っていく。何気ない顔をしているけど、本番から1〜2日は余韻があり、心の奥に熱い何かが残っていたりする。

札幌一番あずましいスタジオと謳われる「STUDIO CREAM」(札幌市中央区北2条東15丁目26) ウッディな内装がほっこりする。確かにあずましいかも
ロックは若者の音楽というのは過去のこと。今はスタジオに行けば、かつてバンドで腕を鳴らした(と思われる)オッサンたちであふれている。「自分もオッサンだけどね〜」とつぶやきながら、スタジオを出てクルマに乗り込む。オーディオからは、大音量のミッシェル・ガン・エレファント。いつまでも音楽は鳴り続ける。クルマは、苗穂アンダーパスを加速して駆け抜ける。
(文と写真)
高崎克秋
「カゼソラ」クリエイティブディレクター&コピーライター。ギターは一向に上手くならず、ヴォーカルを磨く方に力を注いでいる。今年は北海道マラソンが中止になり、別の出場レースを検討中。