札幌の劇場文化を受け継ぐ、演劇専用小劇場「BLOCH」
北3条通、サッポロファクトリーの真向かいに建つ岩佐ビルは、戦後復興期の昭和25年にラムネ工場として建設され、工場の役割を終えた後はテナントビルとして使われてきました。赤茶色のレトロモダンな建物は札幌景観資産に選定され、サッポロファクトリー(旧開拓使麦酒醸造所)や旧永山武四郎邸とともに、この通りの古き良き趣に。飲食店、デザイン会社、設計事務所、撮影スタジオなどが入居するビルの一角に、演劇専用小劇場「BLOCH」があります。
1996年から劇団イナダ組で、2012年からELEVEN NINESで役者として活動し、現在は演出・演劇プロデューサーも手がける小島達子さん。BLOCHのマネージャー・鶴岡ゆりかさんとは、札幌の演劇界の一時代を歩んできました。
BLOCHが開業したのは2001年。その前身は、1986年に建てられた「札幌本多小劇場」が、その後名称を変え、札幌の演劇界の拠点となっていた「ルネッサンス・マリアテアトロ」でした。「私が芝居を始めたのはマリアテアトロ。札幌の劇団の登竜門という感じでした」と小島さん。「TEAM-NACSも学生時代から公演し、そこで大きくなっていきました」と鶴岡さん。マリアテアトロは、ビルのオーナーが変わったことで、2000年に閉鎖。当時のマネージャーは、劇場を残そうと次の場所を探し、岩佐ビルを見つけてBLOCHを立ち上げたのです。
250席のマリアテアトロから、99席のBLOCHへ。規模は小さくなりましたが、雰囲気はマリアテアトロを彷彿する感じに。劇場の入口には、前者で使っていたドアをそのまま取り付けています。「当時、少なめのキャパの小劇場も少なく、劇場がなくなるのは劇団としては死活問題。この劇場ができたときとてもうれしかったし、若手を応援する流れを引き継いでいて本当に良かったなという思いがありました」と小島さん。「マリアテアトロはそこに立てれば一人前という感じでしたが、BLOCHは若手のスタート地点のような場所。劇団始めたいけど何からやったらいいでしょうか?という相談にも応じる場所なんです」と鶴岡さんは言います。
札幌の演劇は、どんな感じ?盛り上がってる?
長年にわたり札幌の演劇界の一端を支えてきた二人。ここからは札幌の演劇事情や演劇そのもの魅力について聞いてみました。
—札幌の演劇界の盛り上がりはどんな感じですか?
鶴岡:若い劇団がどんどん出てきて盛り上がっているなという時期もあれば、就職や結婚でやめていく人もいて、劇団の数が少なくなったなという時期もある。一時は中堅劇団でも全然人が呼べない時期もあったけど…2012年に始まった「札幌演劇シーズン」から変わってきましたね。
小島:8年続いて、いまや道外からも注目される演劇イベントになってきています。広報の仕方が全然違いますね。劇団ではできない打ち出し方をしてくれるので、演劇を見たことのない方々にも広まっていっています。
鶴岡:観る人の層が変わってきましたね。もともとTEAM-NACSやイナダ組が好きで20代から観ていた方が、今はお子さん連れで観に来たり、高校生など若い層に裾野が広がったり。
小島:上演する演目にもよりますが、劇場によっても客層が少しずつ違うのかな、と。BLOCHは若いお客さんが中心。シアターZOOは年齢層が少し高め。コンカリーニョはその中間といったイメージはあります。
鶴岡:先日、福岡の劇団の方が「福岡の演劇は一時盛り上がっていたけど、今は失速している。札幌の演劇の盛り上がりがうらやましい」と言ってましたね。
小島:今は札幌もずいぶん良い状況だと思いますが、若い人はやはり東京に勝負に出て行く子が多いんですよね。札幌で自分の演劇人生を全うしたいという人が増えればいいと思います。もちろんそのための環境づくりが必要ですが。
鶴岡:作品的なクオリティと演劇をやり続けられる状況を二本立てで育てていくことが私たちの課題ですよね。
小島:みんなで劇を作って、演って、楽しかったね、で終わって、その繰り返しでいいのか?そこから先がまだ作れてないような気がしますね。札幌にいながら中央の俳優や演劇関係者が絡む仕事ができる環境が整えばいいなと思います。
演劇の魅力って、なんだろう?どんな楽しさ?
—演劇を観る魅力ってなんですか?
小島:自宅でTVやネットを見たりしているのに比べて、わざわざ足を運ぶということで、ある意味スペシャル感があることかな。
鶴岡:「圧」が全然違います。客席で観るのと、家で映像を観るとでは。言い古されているかもしれないけど、生でしか体験できない何かがあるんです。
小島:大きい劇場だと、今日ちょっと贅沢してるわみたいなスペシャル感。小劇場は、リアル感ですね。表情がよく見えるとか、大変そうに演っているなとか(笑)。
—では、演じる魅力とは?
小島:お客さんが笑っていたり、泣いていたり、楽しんでいるなという反応が直に伝わってくるのは気持ちいいですね。演劇は、一人芝居じゃない限り、共演者と掛け合いするもの。たとえば、大人数の中でうまくキャッチボールできたときとか、面白い役者と演って、思わぬところで心動かされる瞬間とか、日によって違うアンサンブルなどに楽しさを感じます。あとトラブルが起きたとき、みんなでフォローするのもある意味妙な達成感があって楽しいかも。
鶴岡:トラブルが起きたときの一体感ってスゴイですよね。どうするどうする?私はこれやるから、あなたはそっちやって!みたいな(笑)。
小島:舞台上は必死だけど、観ているお客さんにはほとんどわからないんですよ。「え、あれトラブルだったの?全然わからない!」と。トラブルも含めていろんな理由はあれど、生モノなので、そのときそのときで見え方が違うのも面白さの一つですね。
鶴岡:自分が観て面白いなと思った人がどんどん売れていくのは快感。うちで旗揚げした若手劇団の作家の子が、今は東京で大手の舞台の脚本・演出を担当する売れっ子になっていて、その過程をずっと見ていたのは楽しかったですね。お客さまから、自分たちが何年も前に企画・制作した公演を「あれがすごく面白く心に残っている」と聞かされたとき、とてもうれしく思いました。
イーストエリアから、札幌を演劇のまちへ
鶴岡さんはBLOCHができた20年ほど前から、小島さんは6年ほど前から、北3条通近くのイーストエリアに住んでいます。「便利さと落ち着いた感じが両方あって、一度住んだらやめられないですね」と鶴岡さん。「札幌駅も、大通も、すすきのも近いし、ちょっと歩けちゃう距離になんでもある。もっとおしゃれエリアになればいいですね」と小島さん。二人はイーストエリアを拠点に、これからも札幌の演劇界を盛り上げていこうとしています。「札幌でしか観られないクオリティの高い舞台、道外からお客さんが来るような公演をもっと作って、札幌を演劇のまちにしたい」。二人の舞台は、まだまだ続きます。