創成イーストエリアに職場や自宅がある人のInstagramで時々見かけて気になっていたんです。ソンちゃんことキム・ソンジンさんが営むオシャレなカフェ「Small things COFFEE」にお邪魔しました!
「Small things COFFEE」はもともと地下鉄「西11丁目」駅界隈にありましたが、2020年8月に北1条通りに面したこの場所に移転オープン。厨房の奥には夫の長濱幸男さんが営むハサミの研磨工房「Scissors Wrights〈シザースライツ〉」があります。
刃物職人だった父の背を追うように研ぎ師となり、東京で働いていた長濱さん。仕事で韓国へ行く機会が多くなり、ソウルで通い始めた韓国語学院の講師だったソンちゃんと出会いました。その後東京で再会したふたりは晴れて結婚。3年前に長濱さんの故郷である札幌へ移住しました。
もともとカフェ好きだったふたりですが、札幌に移住して感じたのは「行きたいカフェが見つからない」というもどかしさでした。札幌のカフェはビルのフロア内にある店が多くてなんだか閉鎖的。韓国や東京に比べて寒いせいか、深煎りの濃いコーヒーを出す店が多いのも気になる……よーし、それなら自分たちが心地よく過ごせておいしいと思えるコーヒーを出すカフェをつくっちゃおう!
目指したのは、ささやかなことで幸せを感じられる時間が流れるカフェ。日当たりが良く開放的な空間にこだわり、ここでくつろぐお客さまを思い浮かべながら、家具やインテリア、植物、書物など一つひとつ心をこめてセレクトしました。店内ではソンちゃんがデザイン
・制作を手がけるオリジナルグッズも販売しています。
コーヒー豆は東京の大好きなお店「Coffee Wrights〈コーヒーライツ〉」から仕入れる浅煎りタイプ。芳醇な香りと軽やかな飲み口で飲み飽きないおいしさのアメリカーノ(ホット450円/アイス500円)、一杯ずつ丁寧にハンドドリップするブレンド(ホット500円/アイス550円)やシングルオリジン(ホット550円/アイス600円)など、それぞれに異なる味わいが楽しめます。カフェラテに使うミルクは豆との相性にこだわって函館牛乳をチョイス。自家製の焼き菓子に加え、石狩のベーカリー「soup to BREAD〈スープ トゥ ブレッド〉」など厳選したショップから仕入れるスイーツやパンも好評です。
店を出すまで苗穂エリアのことはよく知らなかったという長濱さん。「東京に住んでいたころ好きだった蔵前に似ていると思いました。古い建物が残る下町っぽさと新しく住み始めた人々の活気が交錯して、すごく雰囲気がある街で気に入りました」。
移転前はカップルや友達同士で訪れる人が多かったけれど、苗穂ではご近所に住むファミリーや親子連れ、散歩やサイクリングがてら立ち寄るおひとり様が増えたそう。Small things COFFEEが日常の一部となっていることが伺えます。
長濱さんが理美容ハサミやネイルのキューティクルニッパーの研磨・調整を手がけているため、コーヒーを飲みながら研ぎ上がりを待つ美容師やネイリストのお客さまも多いそう。
「理美容ハサミは1本10万円ほどする高価なもの。それだけに美容師さんの思い入れも深く、大切に手入れしながら長く使っている方が多いんです。そういう気持ちに応えるためにも常に技術を追求しなければ。ハサミ職人って奥の深い仕事です」。
ソンちゃんと一緒に店に立つ土日以外はハサミのことで頭がいっぱいの長濱さん。いつか自分のハサミブランドを作り、日本の伝統産業である刃物の素晴らしさを世界に伝えることが目標です。
一杯のコーヒー。ひとくちのスイーツ。窓辺から降り注ぐやわらかな陽射し。ハサミを丁寧に研ぐ音。プロの誇りが宿る刃の輝き。
Small things COFFEEで過ごしていると、この空間を彩る一つひとつ、ゆっくりと積み重なる一瞬一瞬が、とてもかけがえのないものに思えてきます。「札幌のお客さまは優しい人ばかり」とソンちゃんは言うけれど、この空間に身を委ねていると、誰もが自然とおだやかな気持ちになってしまうんじゃないかな。
カフェを愛するソンちゃんと、ハサミに懸ける長濱さん。夫婦それぞれの大切な思いを形にしたSmall things COFFEEには、小さな幸せがいっぱい詰まっています。
(文)
佐々木美和/コピーライター
好きな韓流ドラマは「ミセン-未生-」「サイコだけど大丈夫」。現在のヘアスタイルはツーブロックのショートボブ。美容師さんのハサミに感謝!
(写真)
高崎克秋/コピーライター・クリエイティブディレクター
Small things COFFEE〈スモールシングスコーヒー〉
住所:札幌市中央区北1条東11丁目15
営業時間:11:00〜19:00
定休日:水曜・土曜