
その地下には、ノスタルジックな食堂街があります。軒を並べるのは、おでん、カレー、洋食店、定食屋など7店舗。レトロな雰囲気と味わいを楽しめる、なかなかのディープスポットです。今回は、ラーメン店の「紫雲亭」におじゃましました。

紫雲亭ファンが高じてオーナーとなった内山さん
紫雲亭は、かつて西区西野で営業していたお店で、一時廃業しましたが、2015年この地に移転開業。オーナーの内山貴文さんは、かつて札幌ステラプレイス「HMV」の店長を務めていました。「その頃、休日には毎週のように紫雲亭に通っていました。異動で札幌を離れても、帰省するたびに紫雲亭へ。とにかく大将がつくるラーメンが大好きだったんです」。
店内の様子。手前の料理人が紫雲亭の創業者・及川さん
内山さんが転勤で東京に住んでいた頃、紫雲亭は暖簾を下ろして閉店。「もう一度、紫雲亭のラーメンを食べたい」と思い続けた内山さんは、店主の連絡先を知る知人を通して「再び店をやる気はないですか?」と聞いてもらいました。すると「もうやるつもりはないけど、誰かが経営してくれるなら考えてもいいよ」と回答。「じゃあ、会社をやめて僕が経営しよう!」と内山さんは決心し、HMVを退職して、経営者として紫雲亭の復活を果たしたのです。
お店で腕を振るう料理人は、西野で紫雲亭を創業し、内山さんが大将と慕う及川強さん。紫雲亭のラーメンを語るには、かつて狸小路で伝説の名店と評され、多くのラーメン通が通った「富公」まで遡ります。
富公のラーメンはガッツリとした濃厚な味わいが特徴で、開店前から行列ができる店でした。店主は頑固な性格で、お店では私語厳禁、ときには客を怒鳴ることもあったといいいます。かつて洋食のシェフだった及川さんは、富公の大ファンで、お店に通っては店主の「つくり方」を研究。「カウンターから作業する様を見て、食べて入っている材料を創造する。大将は、調理人の目と舌で、富公の味を研究していたのです」。
富公の店主は1992年に食道がんにより他界し、店舗は閉店。及川さんは、富公の味を引き継ごうと試行錯誤を重ね、紫雲亭の開業に至りました。現在のお店に掲げている富公の暖簾は、富公の関係者に譲ってもらい、亡くなった店主の奥さんの許諾を得たものだといいます。
お店の壁には富公の暖簾が掲げられている
及川さんが追求した富公の味、いや紫雲亭の味とはどのような特徴なんでしょうか?「豚骨を丁寧に下処理して臭みを取り、8時間かけてじっくりと煮込んで白濁した白湯スープに。魚介や香味野菜など、さまざまな旨みが凝縮した味わいに仕上げます。麺は、富公の麺のレシピをもとに特注した中細の低加水麺。札幌ラーメンといえば玉子麺ですが、それ以前はうちのような麺が主流だったようです」と内山さん。では、紫雲亭のラーメンは、富公の味そのものなんでしょうか?「僕が小さい頃、父に連れられて富公に行ったことはありますが、味の記憶はないですね。富公を知るお客さまからは、『なんか似ているね』『懐かしい感じでおいしいね』という言葉をいただいています。富公は、もっとニンニクもラードも強かったようで、まったく同じ味ではないと思います」。
豚骨の臭みは一切なく、まろやかなコクが美味な醤油ラーメン
内山さんのイチオシは塩ということですが、今回は一番人気の醤油を実食。スープを飲み、麺をすする。圧倒的なコクと旨みが染みわたる。かと言ってくどくはなく、やさしくまろやかな味わい。ラーメンが好きで数々食べ歩きしてきましたが、紫雲亭のラーメンは唯一無二の個性を感じる、通いたくなる味わいだと感じます。
店主としてお店に立つ内山さんは、ほぼ毎日、賄いでラーメンを食べているとか。「休日は紫雲亭のラーメンが食べられないので、ちょっと物足りないんですよね」と笑う。
富公の味を引き継ぎたくて、紫雲亭を開いた及川さん。及川さんのラーメンが忘れられず、紫雲亭を復活させた内山さん。ラーメンを愛する人の縁がつながる、どこにもない味わいがここにあります。
らーめん 紫雲亭
住所:札幌市中央区大通東1丁目3中央バス札幌ターミナルB1F
電話番号:011-271-4010
営業時間:月〜金曜11:00〜19:00 土曜・祝日11:00〜17:00
定休日:日曜・第1月曜
URL:https://www.facebook.com/%E3%82%89%E3%83%BC%E3%82%81%E3%82%93%E7%B4%AB%E9%9B%B2%E4%BA%AD-639101949575247