2019年、札幌とポートランドは、姉妹都市になって60周年を迎えました。“ポー”ランドではないですよ。そちらは国家です。ポートランドはアメリカの西海岸、65万人ほどが暮らすオレゴン州最大の都市。ざっくりいえば、シアトルとサンフランシスコの間にあります。姉妹都市と聞いて、ほとんどの札幌人が最初に思いつくのはミュンヘン(ドイツ)でしょう。そのほか4人もいるんですよ、姉妹。瀋陽(中国)にノボシビルスク(ロシア)、テジョン(韓国)、そしてポートランド。いくつご存じでしたか?

個人的には小学校中学年あたりの社会科で、ポートランドが姉妹都市だと教わった記憶があります。とくに際立った都市という印象はなく、それから30年ほど、頭の片隅の片隅に放置されたままでした。でも5年ほど前、「全米でもっとも住みやすいまち、もっとも住みたいまち」などのうたい文句でその名を聞き、「え? あの? そんなにスゴいまちだったの?」と驚いたわけです。

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それからなんだか気になって、本や雑誌やウェブを漁ってみると、小学生だったぼくが知った1980年代は、現在の姿の下地づくりが進行していた時期。じわりじわりと魅力を増し、2000年代に入ってから「スゴいまち」と注目されはじめたようです。「で、なにがスゴいのさ」って話ですよね。人口は先述のとおり、札幌の3分の1程度で、超高層ビルなんてございません。20世紀的な価値観では全然スゴくない。そして、一言でその魅力をお伝えするのがなかなかむずかしい…。

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ちょっと羅列してみると、エコフレンドリーでバイク(自転車)フレンドリー、1街区が小さくてサクサク歩ける楽しいダウンタウン、サードウェーブの火付け役となったコーヒー文化、定番アメリカンなイメージを覆すレストランやフードカートの数々、市内至る所で催されるお祭り=ストリートフェア、少し足を伸ばせば待っている豊かな大自然…と、その魅力は多岐にわたっています。「あれを忘れてる!」とポートランドファンからツッコミが入りそう。

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ともあれ、こうした多彩な実りの元をたどっていくと、「ローカル愛」という同じ根っこから始まっていることに気づきます。自分たちが暮らすまちを愛するがゆえ、その自然や文化や産業を大切にしようと考える人々。それらをもっと魅力的にするための一手が草の根レベルから打たれ、市側がそれに応えるというコール・アンド・レスポンス。60年代アメリカで起こったカウンター・カルチャー・ムーブメントの火が消えることなく、2000年代まで灯されてきた、非常に稀なまちという見方もあります。ぼくもこれまで二度訪れましたが、とにかくモノもコトも場所も、なんでも自分たちで楽しくつくってしまおうとする気風がビシビシ伝わってくるんです。

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そんなポートランドと札幌、姉妹だけあって(?)まちの構図がそっくり。創成川が札幌の中心部を南北に貫いているように、ポートランドにはウィラメット川が流れています(創成川どころか豊平川よりも大きな川ですが)。どちらの都市も、川の西側にダウンタウン(中心街)が形成され、東側には工場などが集まって、時を重ねてきました。ダウンタウンの西側に山が連なり、動物園があるのも同じだったりします。

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そして、ポートランドでいま元気なのが東側の工業エリア(Central Eastside Industrial District)。古い工場をリノベーションしたカフェやショップ、クリエイターやテック企業のオフィスなどが増えています。この現在進行形の動きも、札幌に似ていると思いませんか。

そうです、創成川イースト。やっとこのフレーズを出せました。札幌の黎明期から工場のまちとして発展したものの、徐々に停滞して人口が減少。しかしここ数年は一転して、札幌でもっとも人口増加率の高い地区に。中心部の重心移動を体感している人も多いことでしょう。

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歩いていても、なんだか似た雰囲気を感じるイーストとEASTですが、個人的に創成川イーストにもっと増えてほしいと思っているのが、ビールをつくる場所&飲める場所です。市内に約70か所のマイクロブルワリー(小規模醸造所)があり、「ビール天国」とも呼ばれるポートランド。近年はEASTにブルワリーが続々と立ち上がっています。創成川イーストも、かつては大きなビール工場がけん引してきたまちですから、新たなかたちで、ビールのまちとしてリノベできたら楽しいじゃないですか!

…という勝手な未来構想に欠かせない、2つの萌芽をご紹介します。まず、創成川沿いにある「月と太陽BREWING」(南3東1/写真左)。札幌では希少なブルーパブ(その場で醸造したビールを飲めるお店)です。そして二条市場向かいのM’s二条横丁2階に入っている「MOYA MOYA BASE」(南2東1)。国内の多様なクラフトビールを樽生で楽しむことができます。ビールに限らずですが、こうした個性的な場がどんどん現われて、創成川イーストが、そして札幌が、じわじわと「住みたいまち、住みやすいまち」となっていきますように。

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ちなみに、姉妹都市60周年を祝って「カンパイ!」するための専用ビールもあるんですよ。僭越ながら、ぼくがプロジェクトの代表を務めさせていただきました。60周年ということで、まちの仲間たち60人が集い、資金とアイディアを出しあって、両市の醸造家にポートランドでのコラボレーションを依頼。現在、2種類の缶として販売中です。上記「月と太陽BREWING」でも飲むことができますよ。というか、同店の森谷祐至さんにも醸造にご協力いただきました。両市の「ローカル愛」がたっぷり溶け込んだ味を、アニバーサリーイヤーにぜひ!

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(文と写真)

大阪 匡史 コピーライター/ディレクター。札幌・ポートランド姉妹都市提携60周年記念ビール委員会代表。好きな言葉は「GATHER AROUND BEER」。かつてポートランドにあった醸造所のスローガンです。 https://www.facebook.com/60ninbeer/